人形制作・撮影by Akemi Murata


Part.7

作品 タイトル『ぞうとにんげん』

 

 ある日、一通のメールが届きました。

 お店(カフェギャラリー『庵』)で、わたしの人形を目にした、舞台などで朗読をされている方からのお便り。内容は「夏に、上演(ひとり芝居のような朗読)を予定している物語の登場人物を、お人形にしてもらえないでしょうか?お人形を舞台に置いて、読みたいのです。」というものでした。その物語は、大川悦生さんの童話『ぞうとにんげん』。

 戦時中、国の命令で動物たちを殺さなければならなくなった、上野動物園の飼育係たちの苦悩と、賢くお腹が空いても毒入りのエサを口にしない、三頭のぞうたちの物語(実話を元にした童話)です。

 郵送で台本も届きました。改めて読むとせつせつと胸に迫る名作。それだけに、戦争という重いテーマも抱えた登場人物たちを、果たして私に創れるのだろうか?と迷いましたが、ぜひ、やってみたい、やらなくては!と心動かされるご依頼でもありました。


 そうして何とか、誕生したのが、この三体の ぞうとにんげん です。

 上の写真の左端で芸を披露しているのは、三頭の中でもいちばん利口で動物園の人気者だった『トンキー』。やさしかった飼育係のおじさんたちが突然、毒を食べさせようとしたり、エサをくれなかったりするので、懸命に芸をして見せる・・・という、何とも痛々しく切ないシーンが印象的だったので、その姿を人形にしてみました。物語の中にある、トンキーが飼育係のおじさんの夢枕に立ち、告げる言葉をご紹介しましょう。

「わたしたちぞうは、けっして、ころしあいのせんそうなんかしませんよ。
それをするのは、にんげんだけです。にんげんのほうが、ずうっとかわいそうですよ。」

「おじさん、あなたは死なないで生きてください。さようなら。」

この人形を創っている間も、この星のうえでは、それぞれの勝手な理屈や大義名分の元に、殺し合い(戦争やテロ)がつづいています。にんげんは、いつ目覚めるのか?トンキーたちに、しんそこ恥ずかしいと思います。


 


                      

2004. 5月 - Akemi -

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