<エッセイ>

中くらいの毎日 vol.1         

 〜もやしくん、さよなら〜

文・ 小武美優





 私は整理整頓が苦手だ。ちなみに掃除も今イチだし、洗濯するのはいいけど(といっても全自動洗濯機だから好きも嫌いもないか。)干したりたたんだりするのは好きじゃない。はっきり言って、自分でも「こんな私が奥さんになっていいのだろうか?」と心配することがある。友達を呼んだりして他人の目につく部屋ですら整頓できない私が、普通は他人が見ない、狭い冷蔵庫をきちんと整理することができようか?

いやできまい。

…果たしてうちの冷蔵庫は私が開け閉めするたびにぐちゃぐちゃになった。実家にいるときは、母の小言さえ我慢すればいつの間にかきれいになっていたので、危機感など全然なかったが、私がこのズボラな性格を心からヤバイと思い始めたのは、就職して一人暮しをしなければならなくなった時だった。


 母がものすごぉく心配したとおり、せまい部屋は帰りたくなくなるほどすごいことになり、特に冷蔵庫は今思い出しても相当ひどいもんだった。実を言えば、料理も苦手だったから、「よし今日はカレーだッ」といきおいで買った野菜の残りで、「次の日は○○を作ろう。」という芸当ができなかったため、私の小さな冷蔵庫はいつも腐りかけた肉や、芽はおろか葉っぱも根っこも出た野菜や賞味期限切れのいろんなものであふれていた。

 その頃、同棲していた彼が冷蔵庫の生ゴミの山から苦労しながらビールを取り出す姿を見て、さすがの私も「そろそろやばいよなぁ」と思い、冷蔵庫を調べてみたら、なにやら正体不明の水溶物が出てきた。袋をみると「もやし」と書いてある。なんと、あのシャキシャキした歯ごたえがウリの「もやし」は、ほっておくとドロドロに溶けちゃうのである!!!私は、そこまでにしてしまった自分を恥ずかしく思うよりも先に、新発見した学者のような、なにやら厳かな気分に包まれていた。そして「もやし」の最期の姿を見たいがために、また冷蔵庫の奥深くに戻してしまったのである。ほとんど忘れかけた頃取り出した時、それはわずかな水分も蒸発し、見事に汚れた袋だけになっていた。世界広しといえども、「もやし」の慣れの果てを知っているのは、私くらいのものではないだろうか。


 私は長期にわたる実験の素晴らしい結果にウムウムと満足し、「成仏してね。」と袋を捨てたのだが、思いもかけず私まで彼に捨てられることになってしまったのだ。汚いもやしを眺めて喜んでいる私の後姿を、彼もまた冷静に眺めていたのである。彼に私の深い探求心を理解してもらえるはずもなく、まもなく結婚した彼の「彼女の家庭的なところに惹かれました。」という言葉を悲しく聞きながらも、妙に納得してしまった私であった。







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2歳くらいから本を読み出し、現在は

夜寝る前に必ず本を読まなければ眠られない活字中毒者です。最近読むだけでは

物足りなくなって、平凡な毎日の中でちょっと気づいたことをテーマに

エッセイを書き始めたりしています。

たくさんの方に読んでもらえたら幸せです。


Essay & comment by miyuu kotake


<yushun@d1.dion.ne.jp>


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