「ピニャコラーダ!」

Poem by 美春




君は何度も死んだね

時には背中を撃たれ

時には両腕を切り落とされ

時に集団狂気の餌食になった



でもいつだっていつだって

お墓から右腕だけは出しておくんだよね



「黄金の右腕さ 

 いつか太陽をつかむんだ」 



君はそう言って笑っていた



そうだね

なかなか大変なことだよね

昼間は人目につくから夜しか実行できないし

お墓から出たはいいけど身体中泥だらけ

口の中まで泥だらけ

ペッと吐き出して

口を拭ったりしてね 



君はお家に帰って

シャボンのお風呂に入る

シャボン玉 フーワフワ

シャワーでシューワシュワ

あー極楽だよね

傷も癒えていくよね



お風呂からあがったら

仏壇まで全力疾走

黒枠の君の写真を取り出して

代わりの写真は頬杖をついたエンジェル

君はカビのはえたお供え饅頭かじって

真っ白な百合を眺めるんだね



君はお風呂で落としたドロをかき集めて

山をこしらえる

シャベルなんて使わないよね

右のてのひらと左のてのひらをそっとあわせて

ほら こうやって

小川の水をすくうみたいに大事に大事に..



大事に大事に..



夜が明けて朝になる前に

ありったけの痛みをリュックサックにつめこんで

君は行く

ドロでこさえた山々をかけめぐるんだね

見渡す限り青草のみずうみ

野性の花々が君に囁く

気持ちいいね...

本当に気持ちいいね..



君の視線は地平線の遥か彼方を飛んでいく

深呼吸するともうそこは雲の中

しっとりとした水晶のしずくが君の喉を潤す

下をのぞきこむとそこは海

空を映し出す鏡のようなエメラルドブルー

君は急降下することを思いたつ

時には道草も必要だものね



ヒューン ドボン!

ブクブクブクブク...

あーさかなたちが歓喜の声をあげているね

君は「やあ」とあいさつ



もっと深く潜ってみる

あ!シーラカンスだああ

君は敬意をひょうして軽くウインク

ついでにプランクトンにも「やあ、元気?」

無視された

ちょっとがっかり



遠くにはぼんやりとイエローサブマリン

「いい旅を...」と敬礼



泳ぎ疲れたね

さあ そろそろあがってごらん

喉がカラカラだよね

だからあがってごらん

あがったら大好きな

あがったら大好きな



ピニャコラーダ!



空を越え 海を越え

また山に戻ってきたね

てっぺんまであと少し

君は走り出す

リュックサックを小脇に持ちかえる

足下にはもやがかかってる

空に向かって風が吹き抜けていく

君は風を追い越さんばかりに走る



ダッダッダッダッダダーン!



どこかでカモメが歌っている

君は負けまいと叫ぶ 

そして叫ぶ



ウェヘヘヘヘヘーイ!



どこかで木々が踊っている

君は軽やかにステップ 

またステップ



タララッタッタ タララッタッター



てっぺんについたね

君は微笑み 瞳閉じて

リュックサックを抱きしめる

そして遠くほうり投げる

どこまでも

どこまでも届くように...



あふれだす祈りたちは

言葉や音楽の紙吹雪となって

空高く舞い上がる

サーサーサー...

静かに星のじゅうたんは広がっていく

やがて

パラパラパラ...

幾千万ものダイアモンドを散りばめた

虹色の流れ星が降り注ぐ...



....私たちはそれを感じる

私たちは夢や希望を見つめる

私たちは星の瞬きに魂の旋律を聞く

私たちは宇宙を語る

自由の翼を広げ 宇宙を語る

私たちは自分を見つける

自然の軌道に自分自身を見つける

私たちを導く

無限に広がる良心の宴が私たちを導く

そして私たちは信じている...

信じてるよ...



そう..

今も君はいるんだね











comment


「ピニャコラーダ!」


ピニャコラーダというのはカクテルの名前です。

実は私は飲んだことないのですが...

ある映画の最も美しい場面でこの言葉が使われていたのです。

「夢と希望」の象徴として使われていたと思います。

で、この詩は

「死者は無力ではない」

そういうことを言いたかったのです。

古来から息づいている魂は生きる人々の糧になる...

そう思います。そして..

最近それを強く感じます。

彼らは今も語っているんですね。




Poem & comment by 美春




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