ストーカー
作/咲良(さくら)
明かりが灯った。
玄関の明かりが灯った。彼女が帰宅したのだ。
「あー、疲れた!やっぱり、ヒールの高い靴はキツイわー・・・。マルー、マル、いるの?」
先月友達からもらってきた飼い猫、『マル』の名を呼んで、めんどくさそうに靴を脱ぎ捨てる。
カツン、カツン。
靴が地面に落ちる音。
「ミャ〜」
「マル、ただいまー。寂しかった?すぐごはんあげるからね、ちょっと待ってて。」
廊下の明かりが点く。
トン、トン、トン、トン・・・
階段を上る音。一定のリズムを踏んで上る、彼女のクセ。
二階の廊下に明かりが灯る。次は、彼女の部屋。
パチン。
彼女の部屋の電気が点いた。カーテン越しに見える彼女の影。
シュル、シュル・・・
服を着替える、布ずれの音。
「あー、楽だ!ジーンズとTシャツで仕事に行けたらいいのに。その方が仕事もはかどるってもんよ。」
キーッ。
カチャ、カチャ、カチャ。
クローゼットに服をしまう彼女。仕事から帰ってくると、彼女は決まってジーンズとTシャツに着替える。いつも文句を言いながら。
「さーてと。マルにエサあげなきゃね。」
ピロッ、ピロッ、ピーロロピロッ、ピロッ、ピー・・・
『Over the Rainbow』。彼女のメールの着信音だ。
「妙子からメールだ・・・。え!?別れたー!?・・・んーまあ、しゃーないかー。なんとなくそうなるんじゃないかと思ってたしねー。」
メールを読んでは、感想を口にする彼女。彼女はいつも話してる。話す人がいない時は、物とでも話す。
ピッピッピッピピピ・・・
おそらく『妙子』ちゃんに返事のメールを送っているのだろう。
「さてと、マルにエサ、エサ。」
パチン。
部屋の電気が消える。二階の廊下の電気も消える。
トン、トン、トン、トン・・・
規則正しい、階段を下りる音。
一階のリビングに明かりが灯る。次は、キッチンに。
ガサ、ガサ・・・
戸棚を探る音。彼女は、いつも決まったところに物を置かない。
それが原因で、よく物をなくしたと騒ぐ。
「えーと、お皿はー・・・」
カチャ、カチャ。
「ミルク、ミルク・・・」
ガチャ。
トポポポポ・・・
「マール!マル、おいでー。お待たせ。」
「ミャ〜」
「いっぱい食べな。おなかすいてるでしょ?」
ピチャ、ピチャ。
「よーし、ミルクいっぱい飲んでるね。さて、私もごはん食べよっと。」
ガサ、ガサ・・・
「いい加減、コンビニ弁当も飽きたなー。」
ブツクサ言いながらも、結構コンビニ弁当が好きなのを知っている。コンビニ弁当のごはんの炊き加減が丁度いいらしい。
ピッ、ピッー、ピピピピピ・・・
ケータイをいじる音。
「あいつー・・・メールくらい送ってくれてもいいのに!この時間なら、とっくに仕事終わってるでしょうに。ねー、マル。」
「ミャ〜?」
「・・・会いたいのにな。この家は一人でいるには広すぎる・・・。ワンルームに引っ越そうかなー。」
『会いたいのにな』か。
思わず顔がにやけてしまう。
そろそろ切り上げて、出向くとしよう。
ピッ。
ザ――――――――。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピンポーン。
「はーい!どなたですか?」
「僕だよ。」
「え!?ちょ、ちょっと待って!すぐドア開ける!」
バタバタバタ。
ガチャ。
「どうしたの、突然!?」
「僕に会いたいって思っただろ?だからさ。」
「うん!すごく会いたかったわ!まるで、魔法みたいね。」
「そうだね。一種の魔法だよ。」
いつも君を見てるから――――――――。
《おわり》
ふと浮かんだストーリー。
知らぬが仏ってこういうことかも知れないですね。
これはこれで幸せかも・・・?
Story & comment by 咲良(さくら)