「激情は歓びの讃歌となり」

Poem by Takakatsu.T.



吹き寄せるシベリアの冷気は
有りとし有るものから
惜しみなくエネルギーを奪う


水分子は自由を失い
六方晶形の雪となり
あるいは
ときに光を七色に分ける氷となる
氷雪は大地をおおい
日々厚さを増し
静寂の淵に沈む


張り詰めた大気にゆらぎが兆し
冬芽に心なしか脹らみを感じ
生きとし生けるものの溜め息が微かに洩れ始めるや
銀毛の輝きに春の日の微笑みを知り
猫柳の枝々はさんざめく


大地をおおう氷雪に
春の日の慈しみが豊に降り注ぎ
そのエネルギーは
水分子に激しい身震いをもたらす
突如として襲う束縛からの解放
己の自由に驚き目覚めた水分子は群がり競い
激情に身をまかせて
川となり
濁流となり
空気をも巻き込み
白濁して日の光に輝き
轟々と川を下る


雪解の荒野に萌え出でた蕗の薹は
激しい流れに共感し
いのちは力に満ち溢れ
日の光を全身に浴びて
すくすくと育つ


合流を繰り返しながら
流れは益々大きく激しくなり
母なる大海原になだれ込み
その懐に抱かれて静まる
激情のときは終わりを告げ
穏やかに天空を仰ぎて
己が天翔けりし日々を回顧する


北風は冷たい
しかし
日差しはもはや春たけなわ
人々の胸にほのぼのと愛ずる心が湧き出で
小鳥たちの囀りは絶えることを知らない
大気もこれに共鳴し
生まれ出でしばかりの新緑が
野から山へと
歓びの讃歌を繰り広げる



     





comment

一年の何割かの期間、大地が氷雪に覆われることは北国の特徴です。この氷雪
が消え去るとき、はじめて春の訪れとなります。氷雪が溶解し消滅することの
現れが、とりもなおさず、河川の増水、濁流、激流でもあります。この詩は、
北国が迎える春を、氷雪の消滅を表面に押し出して描こうとしたものです。



Poem & comment by Takakatsu.T.

tallforest@vanilla.ocn.ne.jp


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