『北国の春始動せり』

Poem by Takakatsu.T.



張り詰めし冷気の柱くずおれて

肢体の力失せ行けり

されど 見よ

胸元に

兆し初めしふくよかさ

胸の鼓動は

押し寄せる情けに和して波打てば

乾き果てたる涙腺も

微かにふくらみ始めたり

それも束の間

湧き出づる

大粒の涙

止め処なし


三日三晩 屋根打つ雨の忙しくも

丈余の雪の細り行く

黒土の現れはじめし暗き夜半

独り去り行く雪女


奈落より

せり上がり来る

剣の群れ

天に向かって林立す


ごうと響く黒土の

地割れの音の絶えざれば

野に住むモグラも目覚めけん


土を割り

漲る命の萌え出でて、

落ち葉貫き育ちゆき

降る陽を浴びて毅然たり


一夜明けて

続く日々

指数関数さながらに

開く花々瑞々し


Tシャツの胸のマークは

「Eイコールm掛けるcの二乗」の式

『光速cは定数だ

だけど

こんなことを思うんだ

北国に春訪れるその時だけは

光速は10倍になっているに違いない』

眼鏡の少年の独り言


よろずの命はハレルヤと

讃美の声を高らかに、

心は歓喜に打ち震え

北国の春

始動せり




     


comment

北国では、歌舞伎等で踊りの合間に手早く衣装を変えるあの早業に似て、突然のよう
に襲来する春に大きな歓喜を呼び起こされます。今年も、北国の春が始動しました。
以下は蛇足です。


鼠算という表現は最近使われないようですので、指数関数の語を使いました。また、
質量(m)とエネルギー(E)が互いに移り変わるアインシュタインによる式は一つの
シンボルのように子供の世界にも入り込んでいるようです。(TXT形式ではcの二乗
を式で表せないので、式を言葉にしました。)



Poem & comment by Takakatsu.T.

tallforest@vanilla.ocn.ne.jp


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