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「このアイスクリームはコインでは買えないんだよ。
でも、だいじょうぶ。手に入れるのはとっても簡単!
ぼくの目を見て、
いちばん楽しかった日のことを思い出すだけさ」
「ただ思い出すだけ?」
すっとんきょうな声をあげたのは、町でいちばんのいたずらっ子、
トムだった。
「そうだよトム、口に出して話してくれなくてもいいんだ。
ただ、その日のことを思い出してくれさえすれば…
それが、このアイスクリームの代金なんだから」
はじめて会ったはずのアイスクリーム屋さんが、どうしてトムの名前を知っているんだろう…それに、『いちばん楽しかった日の思い出』が、アイスクリームの代金だなんて聞いたことがない。ぼくたちは、おもわず顔を見合わせて、首をかしげた。
その時、おずおずと、一人の女の子がアイスクリーム屋さんの前に立った。おどろいたことに、それは、町でいちばん”恥ずかしがり屋”のソフィーだった。いったい、ソフィーがどんなことを思い出しているのか、ぼくたちにはわからなかった。でも、ソフィーの目をじっと見つめていたアイスクリーム屋さんは、しばらくすると満足そうにうなずいて、こう言ったんだ。
「ああ、なんて楽しい思い出だろう…
はじめて海を見たとき、裸足で砂浜をかけたとき、
君はほんとうにうれしくてドキドキしていたんだね。
波の音も、光る水しぶきも、どんなにステキに思えたことか…」
アイスクリーム屋さんはそう言うと、どこからともなく、パッと大きなアイスクリームを取り出してソフィーにわたした。あんなきれいなアイスクリームを見たのは、はじめてさ!コバルトの海の色をしていて、白い波のもようがついているんだから…。