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その時とおくで、男の子をよぶ声がした。
どうやら家のひとが、彼を探しに来たようだ。そろそろわたしも、行くとしよう。
ま、あわてなくとも、大人たちには、このわたしの姿は見えないのだが。
わたしは浜辺をあとにした。 すこし淋しいことだが、いつかは、あの子にも
わたしが見えなくなる日が、くるだろう。それは、しかたがない。 ただ、ほんの少しだけ、浜辺の砂つぶほどでも
今夜のことを覚えていてくれるだろうか?せめて、こんな三日月の夜には。 さて、そろそろ戻ろう。そうそう、
こんどの三日月の夜には、きみの町に行くかもしれない。たとえ、わたしの姿が見えなくても、空の三日月に話しかければいい。
そうしたら、わたしは、きっと、きみのそばにいるだろう。
なにしろ、わたしはムーン。三日月の夜に生まれる 月の分身なのだから。 <END>