「ライター=ライトンの子守唄」   ひなた



6年くらい前。
アミの村には歌うたいが住んでいました。
名前はガイナ。女性の歌うたいです。
彼女の声は、空を突き抜けるくらいどこまでも高く、大地を吹き抜ける風のように爽やかで、とても心地よいものでした。
村の人々は、国一番の歌うたいだと、ガイナを誇りに思っていました。
もちろん、アミも。
しかし、ガイナは年を取り、声が出ないことを理由に、歌うたいを辞めてしまったのです。
そして、自分の生まれた故郷へと一人帰って行きました。

それ以来、アミの村には歌うたいがいませんでした。
何故なら、ガイナと約束をしたからです。
ガイナが薦める歌うたい以外に、誰も雇わないと。
大切なガイナとの約束ですから、村人たちは、ずっと、ずっと、待っていました。

そして、今日。
とうとうアミの村に新しい歌うたいがやって来たのです。


村は新しい歌うたいの話題で持ちきりでした。
ガイナはもう50年近く、歌うたいを勤めてくれていたので、
村の人は皆、ガイナ以外の歌うたいをよく知らないのです。
どんな歌を歌ってくれるのだろう。
村の人々は、わくわくしていました。

しかし、アミだけは違いました。
アミは、ガイナのあの澄んだ気持ちの良い声が大好きだったのです。
なのに……。
「みんな、ひどいわ。ガイナのこと忘れるなんて」
私は、絶対に好きになんかならないから。
アミは心に強く誓いました。


さて、早朝の村の広場には、たくさんの人が集まっていました。
新しい歌うたいの紹介を、今か今かと待ちわびていたのです。
「どんな人なんだろう」
「どんな歌を歌ってくれるのかしら」
「楽しみだなぁ」
にこにこと笑い合う村の人たち。
そんな中、アミだけがじっと中央にある台をにらみつけていました。

すると、
右側の方からざわっと人の声がしました。
「どうやら、来たようだよ」
大きな拍手と一緒に、ふっくらとした村長がやって来ました。
そして、その後ろから、ひょこひょこと一人の若い男がついてくるのです。
ずんぐりむっくりの村長さんの倍はある高い背を少しだけ丸めて、どこかうれしそうに歩いていました。
橙色の髪に緑の瞳。
背負っているリュックはあちこち破けていて、ぼろぼろです。
歌うたいの威厳すらありません。

「あれが?」
「あの男が?」
村人たちは訝しげにぼそぼそと話しています。
やがて、村長とその男の人が台の上に上がると、ぴたりとざわめきが止みました。
村長はこほんとせきをひとつすると、高らかに話し始めました。
「諸君。お待たせしました。長い間、我村で勤めてくれた歌うたいガイナに代わり、今日、新しい歌うたいがこの村にやって来てくれました」
そして、うーんと首を上げ、男に笑いかけます。
男はそれを見ると、にっこりと笑い、マイクの前に立ちました。
でも、そのマイクは村長の背の高さに合わせていたので、かなり背を曲げなければなりません。
くすくすと村の人は笑います。
男はこりこりと鼻の頭をかくと、背筋をしゃんと伸ばし、大きな声で言いました。
「はじめまして。ライター=ライトンです。歌うたいになって初めての村です。一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりとおじぎをしました。
すると、村人からわっと歓声が上がり、拍手が起こりました。

その優しいもてなしに、ライター=ライトンは、ほっとしたように笑うと、
壇上のすぐ目の前に立っていた男の子が、にこにこと笑いながら手を上げました。
「ライターさんは、何の歌が得意なんですか?」
その元気な質問に、ライター=ライトンはにっこりと笑うと、こう答えたのです。

「……僕はね、子守唄が好きです」

「子守唄?」
「子守唄だって?」
意外な答えに、ざわざわと村の人たちが慌てる中、
ライター=ライトンは、ただただ、にこにこ笑っていたのでした。


アミの国では、必ず村に歌うたいがひとり勤めています。
毎朝、村歌を歌ったり。
学校で音楽を教えたり。
国の祭りには、村の代表として歌を歌わなくてはなりません。
他にもいろいろたくさん仕事があります。
彼らはどんな曲でも歌えなければなりませんが、やはり得意なものはそれぞれにあって。
ライター=ライトンは、それが子守唄だというのです。

冗談じゃないわ。
アミは怒っていました。
子守唄は母さんが歌うものが一番なのに。
アミはお母さんの歌う子守唄がとても好きでした。
決して上手くはないけれど、とても落ち着いて安心して眠ることができるのです。
アミはますますライター=ライトンのことが嫌いになりました。
絶対に、絶対に、好きになんかならない!
アミはそう強く決心したのでした。


さて、ライター=ライトンがこの村に来て、3日目のこと。
初めてアミの学校に、ライター=ライトンがやって来ました。
音楽を教えに来たのです。
どんな授業をしてくれるんだろう。
皆、ライター=ライトンの授業を楽しみにしていました。
ただ、アミを除いて。
ガイナの授業より、楽しい授業なんてできっこないわ。
アミはそんな風に思っていたのです。

ライター=ライトンの授業は、ガイナの音楽の授業とは少し違っていました。
歌を中心に教えてくれたガイナの授業とは違って、
盗賊を捕まえたお姫様のお話や、
いつまでも溶けない氷の湖のお話など、
修行時代に歩いて回った村々の話をしてくれたり、
村で流行っていた歌を教えてくれたりしました。
そして、何よりライター=ライトンの歌声!
それはまるで何かに優しくつつまれているように、とても、とても、心地よいもので、
子ども達は皆うっとりと聞き入っていました。
中には、ガイナの歌よりも好きだと言い出す子までいて、

アミはとても悔しかった。
皆がガイナのことを忘れてしまうような気がして。
でも、
それよりも、もっと悔しかったのは、
アミもまた、少しだけ、少しだけ、ライター=ライトンの歌をいいなと思ってしまったことでした。
ガイナのことが大好きなのに。


その日の学校からの帰り道、
アミは夕日に背を向けて、ひとり、とぼとぼと川沿いの道を歩いていました。
太陽の光に当たってきらきらと輝く川はとても美しかったけれど、
アミのとても好きな風景だったけれど、
今のアミを慰めてくれるものではありませんでした。
アミはずっと後悔していたのです。
どうしてなんだろう。
どうしていいなんて、思っちゃったんだろう。

「あーあ」
アミは肩を落とし、溜息をつきながら歩いていました。
すると、どこからか風にのって、小さな歌声が聞こえてきたのです。
泣きそうになっているアミを慰めるように、くるりと風はアミの頭をなで、去っていきました。
小さな、小さな、メロディー。
誰が歌っているんだろう。
アミは歌の主を確かめようと、きょろきょろと周りを見渡しながら歩いていました。
すると。

いた……。

前の方に、土手に座って歌っている人がいました。
橙色の髪。大きな背を丸くして、川をじっと見つめています。
後ろ姿でもわかる。あれはライター=ライトンです。
ど、どうしよう、会いたくないよ。
そうだ、見つからないように、早足で通り過ぎればいいんだ。
よしと、そうアミが決心し、すたすたと歩き去ろうとした時、
ふと、ライター=ライトンが後ろを振り返ったのです。

わっ!
アミは思わず立ち止まってしまいました。
しかし、ライター=ライトンは座ったままにこりと笑うと、おいでおいでと手招きしました。
楽しそうなその微笑に、
無視すれば良かったんだけど。
だまって走り出せば良かったんだけど。
何故かアミは去ることができませんでした。
その招きにつられるように、ゆっくりと土手を下りていきます。
そして、ライター=ライトンのすぐ側まで来ると、ちょこんとその横に座りました。

「こんにちは。僕は、ライター=ライトン。君は?」
「アミ……です」
アミはぽつりと答えました。
小さな声でしたが、ちゃんとライター=ライトンは聞き取ってくれたようです。
「アミか、可愛い名前だなぁ」
そう言って、ふふふと笑ったのですから。
なんか、変な人。
アミはちらりとそう思ったのですが、
かまわず、ライター=ライトンはアミに話しかけます。

「いい所だねぇ。ここは」
「え?」
「村の人たちは皆優しいし、おだやかでのんびりしていて。本当にいい村だ。うん。ガイナさんの言うとおりだった。来て良かったなぁ」
そう言って、にっこりと笑ったのだけれど。
アミは、ライター=ライトンの口からガイナのことが突然出てきたので、そっちの方が気になって思わず尋ねてしまいました。
「ガイナを知ってるの?」
「うん。ここに来る前に協会であってね。いろいろと話をしたんだよ。とてもいい村だからよろしくお願いしますって」
「そう、だったんだ」
知らないところで二人は会っていたのです。
アミは何かとても不思議な気がしました。

「ガイナさんはとてもいい歌うたいだね」
「そう思う?」
「うん。この村を見てるとね、歌を聞いたり、歌ったりすることがとても好きなんだなぁって思うよ。そこまで、歌と自然に付き合えるって、珍しいことなんだ。ガイナさんが、きっと大切に大切に、この村に歌を教えたんだよね」
ふんわりとライター=ライトンは笑いました。
その笑顔を見ていると、アミは何だか心がじんわりと温かくなってきました。
とてもうれしくて。
ライター=ライトンに聞いてもらいたくなったのです。
大好きなガイナのことを。

「……私ね、歌うことがきらいだったの」
「うん」
「上手く歌えなくて。でも、ガイナが教えてくれたの。楽しいことやうれしいことを思い出しなさい。それで、心をいっぱいにして歌ってごらんなさい。そうすれば、歌えるようになるからって」

そうです。
ガイナの言うとおりにして歌ったら、本当に歌えるようになったのです。
アミはそれからガイナが大好きになりました。
アミに歌うことを教えてくれた人。
アミのたったひとりの歌うたい。

「いいなぁ」
「え?」
「ガイナさんのこと。アミはガイナさんのこと、とってもすきなんだよね」
「うん。ガイナがアミの一番の歌うたいだよ」
「うらやましいなぁ。そんな風に大切に思ってもらえるなんて。僕も早くそう言ってもらえるようにならなくちゃ」
そう言って、ライター=ライトンは笑いました。
そして、川を見つめ、再び歌い始めたのです。
小さな、小さな声で。
だけど、とても優しい歌。
その曲はアミが聞いたことがない歌で、
何の歌か聞きたかったけれど、
でも、今は。
ずっと、この歌を聞いていたい。
そんな風に思ったのでした。

ごめんね、ガイナ。
ガイナの歌が一番だけど。
ライター=ライトンの歌も、好きになってしまったみたい。
いいよね、ガイナ。
好きになっていいよね。

もちろん、それでいいんですよ。

心の中のガイナが、ふふふと優しく笑いました。


さて、夕日が沈み一番星が出る時間になりました。
「もう暗くなったし、そろそろ帰ろうか。送っていくよ」
「いいよ。一人で帰れるよ」
「だめだよ。女の子一人じゃ危ないからね。ちゃんと送って行きます」
そう言いながら、ライター=ライトンは立ち上がりました。
アミも一緒に立ち上がったけれど、
もう少し聞きたかったなぁ。
服についていた草の葉をぱたぱたと払っていると、ふと、思いついたことがありました。
そうだ!
「じゃあ、さっきの歌、教えて」
「ん?」
「ほら、さっきライター=ライトンが歌っていた歌。とてもきれいだったから」
だめかな。
そう瞳で聞いてくるアミに、ライターがくすりと笑うと、アミの手をそっと取りました。
そのまま手をつなぎます。
「いいよ。歌いながら帰ろう。手をつないでね」
「うん」

涼しい風が、アミとライター=ライトンの背中を押していきます。
「さっきの歌はね、風の歌って言うんだ」
「風の歌?」
「ここからうんと遠い所にある町の、古い歌なんだけどね。この歌を歌うと、何故か風が遊びに来てくれるんだ」
「遊びに来てくれるの?」
「うん。不思議だよね」
そう言えば、さっきこの歌を歌っている間、ライター=ライトンの周りに風がくるくると回っていたっけ。
本当に遊びに来ているみたいに。
いいなぁ。
アミはうらやましくなりました。
歌えるようになったら、私の所にも遊びに来てくれるかな。

ライター=ライトンに教えてもらいながら、アミは少しずつその歌を覚えていきました。
やがて、アミがたどたどしくでも歌えるようになってくると、小さな風がアミのほおや頭を優しくなでていきます。

やっぱり、風を呼ぶ歌なんだ。

不思議だけど、
とっても素敵だ。
二人は手をつなぎ歌いながら、アミの家へと帰って行きました。


しばらく二人で歩いていると、アミの家の近くにやってきました。
「あれ?」
「どうしたの。アミ」
「私の家の前に誰かいる。……お母さんだ」
そう呟くと、アミはライター=ライトンの手を握ったまま走り始めました。
それに気付いたお母さんも、慌てて駆け寄ってきます。
「ああ、アミ、お帰りなさい。探したのよ」
「ごめんなさい。遅くなって。……でも、どうしたの、お母さん。そんなに慌てて」
「実はね、隣の村に住むおじいちゃんが、大きなけがをしてしまったの。それで、お父さんとお母さん、今からおじいちゃんの所へ行かなくちゃいけないのよ」
「おじいちゃん、だいじょうぶなの?」
「足の骨を折ってしまったみたいなの。おじいちゃん、ひとりだから心配で……。だからね、アミには今晩、ひとりで留守番してもらわなくちゃならないの」
できる?
そう心配そうに尋ねるお母さんに、アミはうんと大きく頷いた。
「だいじょうぶよ。おかあさん。アミ、ひとりでお留守番できるから。早くおじいちゃんの所へ行ってあげて」
笑って言ったアミでしたが、その手はずっと震えていました。
アミはかくしていたつもりでしたが、ずっと手をつないでいたライター=ライトンにはちゃんと伝わっていたのです。
アミの不安が。
だから、

「あの……良かったら、僕、アミと一緒にいましょうか?」
「ライターさん」
「こんな小さな女の子、一人で家に残しておくのも不安だし、何より僕の子守唄をアミに聞いてもらえるチャンスだから」
ね。
ライター=ライトンは、にっこりと笑いました。
逆にアミは慌ててしまいました。
「だ、だいじょうぶよ。アミ、ひとりでお留守番できるよ。平気だよ」
慌てるアミと、にこにこと笑うライター=ライトンを交互にお母さんは見ていましたが、
やがて、よしと頷くと、
「ライターさん。申し訳ないのですが、アミをお願いできますか」
と言ったのです。
「お、お母さん?」
答えて、ライター=ライトンも頷きます。
「はい。お母さんとお父さんは安心しておじいさんの所へ行って下さい。アミは僕が守っていますから」
「ありがとうございます。アミ、ちゃんとライター=ライトンさんの言うことを聞くのよ。わがまま言っちゃだめよ。じゃあ、行って来るからね」

そして、お父さんとお母さんは大きな荷物を持って馬車に乗り、おじいちゃんの住む村へと出かけていきました。
しばし、二人はその馬車の姿を見送っていましたが、やがて、その姿も見えなくなりました。
「……行っちゃったね」
「うん」
「どうする?取り合えず、家の中に入って夕飯にしようか」
「う、うん」
「何か作ってくれているかなぁ。なければ僕が作ってもいいけどね」
「ライター、御飯作れるの?」
ビックリ顔のアミに、ライター=ライトンは得意げに、にんまりと笑いました。
「まね。いろんな村の人に教えてもらったからね。食べてみる?」
「うん!」
二人は笑いながら、ドアを開け、家の中へと入っていきました。


その日の夜は、アミにとって忘れられない夜になりました。
お母さんは簡単な料理を作って行ってくれたけど、スープがなかったので、ライター=ライトンはすぐにスープを作ってくれました。
野菜いっぱいのそのスープは、ちょっと塩辛かったけど、それでも美味しくて、アミはにこにこと笑いながら食べました。
その後は、二人でゲームをしたり、ライター=ライトンの面白い話を聞いたり、
アミは楽しくておかしくて、ずっと、ずっと、笑っていました。

そして、
とうとう眠る時間がやってきたのです。

アミの小さな部屋に、ランプの暖かな光が灯されています。
アミはベットにもぐりこみました。
お母さんが干してくれていたのでしょう。布団からはほのかに太陽の香りがしました。

お母さん、お父さん、もうおじいちゃんの所へついたかな。
今まで楽しくて忘れていたひとりぼっちの寂しさが、アミの心にふとあらわれてしまいました。
少し曇ってしまったアミの顔を見、ライター=ライトンは安心させるように微笑みながら、
布団の上からぽんぽんとアミの身体を優しく叩きます。
「眠れそう?」
アミはふるふると首を振りました。
「ううん、あんまり眠れそうじゃないや」
「そっかぁ。じゃあ、少しだけ話をしようか」
「うん。今度はライターのことを教えて」
「僕のこと?」
「うん。ライターは、どうして歌うたいになろうと思ったの?」
ライター=ライトンはちょっと困ったように笑いましたが、
ゆっくりと静かな声で話し始めたのです。

「僕が、子守唄が一番好きだって言ったの、覚えてる?」
「うん」
気持ちがいいライター=ライトンの声。
「母さんがね。よく歌ってくれたんだ。子守唄。とても歌が下手な人でね、めったに人前では歌わなかったんだけど、僕がぐずると歌ってくれたんだ。
たどたどしくて、時には音も飛んで、きれいな歌とは決して言えないんだけど、僕はとても好きだったよ」
「私もお母さんの子守唄が一番好きよ」
「……そりゃそうだよ。なんたって、子守唄は子どもを守る歌、だからね」
「え?」
「守る歌なんだよ。子どもをね、怖い夢から守る歌。だから、子どもを一番愛して守りたいと思っているお母さんの子守唄が一番って言うのは当然なんだよ。歌うたいもこればっかりは叶わない」
ライター=ライトンは首をすくめ、おどけてみせました。
でも、

「二番目でいいの?」
「ん?」
「一番じゃなくていいの?歌うたいなのに」
アミの疑問にライター=ライトンは、ふんわりと笑って答えます。
「二番目でいいんだ。二番目に好きになってくれたら、僕はそれでじゅうぶんなんだよ。何より僕は子守唄を歌うのが好きなんだ。僕の歌を聞いて、安心して眠ってくれるのを見るのが、とても好きなんだよ。例え、二番目でもね」

笑うライター=ライトン。
二番目でいい。そう言ったライター=ライトン。
変なの。
絶対変わってる。歌うたいなのに。
でも、アミは何となくライター=ライトンらしいなと思ったのです。

「ねえ、何だか眠くなっちゃった。歌って、ライターの子守唄」
「何の曲がいいかな?」
「ライターのお母さんが歌ってた曲がいいな」
「……うん、いいよ」

一度。
二度。
ライター=ライトンは深呼吸をしました。
そして、紡がれていく子守唄。


   
おやすみ おやすみ いとしいこ
  金色 三日月 おふねにのって
  夢の国へ行きましょう
  銀色 星様 きらきらきらり
  ぼうやがくるのをまっている
  おやすみ おやすみ いとしいこ
  おやすみ おやすみ またあした



初めて聞くライター=ライトンの子守唄は、
とても、優しくて、
あたたかくて。
まるで、お母さんに抱きしめてもらっているみたい。
アミは、今にも眠ってしまいそうでした。

でも、
これだけは言わなくちゃ。

「すごく気持ちがいいよ。ライターの子守唄」
「そう?」

「……でもね、一番はお母さんだけど」

そう小さく呟くと、アミは眠りの底へ沈んでいきました。

「一番はお母さんかぁ……」
ま、しょうがないか。
ライター=ライトンは苦笑いをすると、アミの髪の毛をくしゃりとなでました。

「おやすみ、アミ。良い夢を」


アミの村の歌うたいは、
橙色の髪に、緑の瞳。
ひょろりと背が高くて、いつも歌うように歩いている。
威厳もないし、のん気者。
でも、とても素敵な歌うたいです。

彼は、今日も子ども達のため、優しい子守唄を歌います。
届くといいのに。
風に乗って、
あなたの所へ。
それは、とても素敵な子守唄。

おわり




<コメント>
まだ小さかった頃の甥っ子が、妹にだっこされて眠る時、
妹が歌を歌いながら寝かしつけていました。
安心して眠るその姿に、子守唄ってやっぱり子どものための歌なんだなと思い、
そこから生まれた作品です。


 ←クプカ「きら星★」目次へ

  ←「さくら さらさら」とっぷへ