「春色の墓」

Poem by キリン


桜の見事な公園で 遊んでいたらいつの間にか日が暮れて

皆家路に着く頃 その子は一人残って遊び続け

ずうっと一人で遊んでいて

そして家に帰ってご飯を食べて寝た


大きくなったその娘はバレー部に入り 居たたまれなくて

すぐに辞めた 学校は辞めなかった

勉強も遊びもそこそこに それとなく輪に入り しかし溶け込むことなく

人が恋しく辛く でも居ればなお辛く

なぜかはわからないけれど


社会に出ると少し楽になった 輪よりも実を重んじる世界が合っていて

その女性はある一面抜きん出ていて そしてある一面

酒を飲むとヘコんでしまう

そんな性癖が生まれた


結婚をした 結局離婚はしなかった

子供はそれなりに育ち 夫は先に逝き

妻は観葉植物を愛で クラシックを愛で

そんな妻が亡くなる時 子供は涙に暮れた 母親を不憫に思った


不憫に思ったのは何故だろう


桜前線の北上とともに墓石は桃色に 鮮やかに飾られて

そのきれいな様に うわぁ と喜ぶ少女があれば

優しく微笑む父親の姿もあろう

公園で夜遅くまで一人で遊ぶ子供の姿は 人々の記憶から消え そして

時々刻々と生まれる環境という名の子らと

決して変わらぬ愛情が 揃って波のように

桜とともに大地を優しく染めてゆく





comment


春、見事に咲き散る桜も良いのですが、
その後の緑豊かな、命に満ちみちた、
とても健やかな桜の姿もまた、
微笑ましく思います。


Poem & comment by キリン

<tt-kirin@nyc.odn.ne.jp>



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