ナマエノナイセカイ

Poem by 野田りある


正方形のカード1セット

それぞれに絵が描かれて


これは、り・ん・ご

これは、か・ぎ

これは…


単語練習は拒否

リピートからの脱走

廃墟のように立ちはだかるプライドが

家族の選択を無力化してゆく

握り寿司は醤油の代わりに味噌汁へ放り込まれ

辻褄の合わない言動が希望を滅ぼす


会うたびに不本意な義務を強制する

正体不明の

でも何だか自分に関係有りそうなヒト

わたしは侵略者だ

呼び名を外された灰色の存在だ


彼は何も不自由を感じていない

変わりたいとか

取り戻したいとか

そんな価値観とは無縁なセカイ


脳の一部機能を失った日から

壊死した細胞とともにすべての役割から解放され

収入や明日にこころ散らすことがない

認識したいものを認識し

情報を溜めることなく

予定も計画も検討もなく

思うままに思うままに

今したいこと

今思いつくこと


決まってぐるりと歩く道

満足すると

取り壊される寸前の

狭い借家に帰る

屋根のはるか越えたあたりを見上げ

かつて自ら植え込んだ

笹と桜の擦れあうシンフォニーを聴く



もしかして

ようやく幸せを手に入れたのですか

知らずに済むことを知らず

知るべきことを風に見つけ


「いいね」

「初めて」

「凄いね」

セカイはそれらで溢れ

セカイはそれらで溢れ


忘れられた記憶に

あなたが付けた名前は封印されている

忘れられた名前を

わたしは胸に付けエレベーターに納まる


アラビア数字オレンジ色の点滅

箱の中にはそれしか見るものもなく

変わりたいとか

取り戻したいとか

必ず幸せになってやるとか


セカイはそれらで溢れ

セカイはそれらで溢れ







comment


いまさら、取り戻せなくても
新たに築く関係もあるのではないかと思うこのごろ。
けして良い父ではなかったのですが…。


Poem & comment by  野田りある



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