「水芭蕉」

Poem by Takakatsu.T.



雪深き湿原に臥していた葦の群れは
長い夜の寝姿のままに
累々と横たわっている。
彼等を覆っていた雪は
今しがた消えたことには気付かないで。


海から吹き寄せる風はなお肌を刺し
湿原の水は手を凍らせ
荒ぶる魂がさまよう頃
純白の苞(ほう)が黄色の大きな
花穂(かすい)を抱いて現れる。
人はこれを
水芭蕉と呼ぶ。


春の目覚めに先駆けて
咲き出る水芭蕉
その姿は
幼な子イエスを抱く聖母マリヤにも似ている。
この清々しい姿が
湿原の水面に広がるとき
さまよえる 荒ぶる魂は清められて静まる。


萌え出ずる水芭蕉の若葉
その新緑の語らいに
葦の群れは目覚め
湿原にいのちが蘇りはじめる。


友は友を呼び
百花繚乱
生きるいのちの歓びは
北の大地を覆い尽くすだろう。








comment


北国の湿原に、春に先駆けて咲く水芭蕉は、残雪もあり風も水も未だ冷た過ぎる、
そのようなときに開花し、痛々しくさえ感じさせられます。
先駆けるものは時の兆(きざし)を知っているのですね。
この詩は石狩川河口に広がる湿原の風景です。



Poem & comment by Takakatsu.T.

tallforest@vanilla.ocn.ne.jp



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