そのアイスクリーム屋さんの馬車が、ぼくたちの町にやってきたのは、とてもよく晴れた夏の昼下がりだった。馬車は、町でいちばん大きな、けやきのこかげに止まっていた。中からかすかに聞こえてくるオルゴールのしらべ…なんて、こころにしみるメロディーだろう。
Picture by Osamu Murata
「夢のように甘くておいしいアイスクリームはいかが?
ひんやりひろがる幸せの味…
世界でいちばんおいしいアイスクリームだよ」
ひょろりと背が高いアイスクリーム屋さんの売り声は、まるで歌のように心地よかった。とろけるように甘いバニラの香り…いつのまにか、馬車のまわりには、町中の子どもたちがならんでいた。みんな、ポケットにコインをにぎりしめて。ところが、アイスクリーム屋さんは、コインを受け取らずにこう言ったんだ。