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見ると、小さな男の子が、かたわらの岩にちょこんと腰かけ、
にこにこしながら、こちらを見ているじゃないか。「ぼうやには、わたしが見えるのかい!?」
おどろいてたずねると、男の子は、こっくりうなづいた。
それから夜空にうかぶ三日月を、ゆびさしながら「おじちゃんって、あのお月さまに、どっか似てるね」
と言って、にっこり笑う。
その澄んだ瞳に見つめられると
「そりゃあそうさ、わたしはあの月の分身なんだから」
と、つい打ち明けそうになったが、あわてて言葉をのみこんだ。
すると男の子は、なおも三日月を見上げながら、こんなことを言いだしたんだ。「ねぇ、お月さまっていったい、何人いるのかなぁ?」
何人だって!?
「もちろん月は、この世にたったひとつだよ」
わたしがそう、きっぱり答えると、男の子は、まだ首をかしげながらこう言った。
「だって、まん丸だったり、細くなったり、うんと細くなったり、それからまた、ふくらんだり、
毎日カタチがちがうでしょ?だからぼく、お月さまは、何人もいるのかなぁ、って思ったんだ。
そっか、ひとつなんだ・・・じゃあ一体、どの時のお月さまが、ほんとうなのかなあ?」そう言われてみると、わたしも何だか、よく分からなくなってきた。
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