父と娘の湯布院

-九州つれづれ旅日記-


文と写真 Akemi Murata


< 大阪から小倉へ>


 九州へ旅をするのは、これが二度目です。

 一度目は子どもの頃の家族旅行。父と母と兄と私、四人家族で別府に泊まったそうですが、覚えているのは、高崎山のサルにスカートをひっぱられてドテッところび、大泣きしたことくらいです。

 ただなんとなく、九州には親近感がありました。それは多分、その後の人生で九州出身の友人に縁(えん)があったからでしょう。たまたま?彼女たちがいずれも喜怒哀楽の激しい情熱家ばかりだったので、

『九州人には、きっとラテン系の血がまざってるにちがいない・・うん』

とやけに妙な確信?をもちながら、九州の“熱とパワー”を感じてきたような気がします。


 さて、その九州へ・・今回は父と二人だけの旅です。もっとも、旅行カバンのなかでは白いハンカチにくるまれて、昨年、写真になってしまった母がほほえんでいます。目的地の湯布院温泉は、その母が「行ってみたい」と話していた温泉なので、気持ちとしては三人旅です。

 東京に住んでいる私は、とりあえず大阪の実家に帰省してから、2泊3日の旅に出発することにしました。旅行といっても、湯布院の宿に泊まるのは11月1日の夜だけで、帰りは船に1泊して、3日の朝にはもう大阪にもどるのですから、ほんのささやかな小旅行です。

 九州に出発する朝は午前5時に起きました。予定の始発に乗るため父と最寄り駅に着くと、なぜかそこに兄が立っています。兄は結婚して実家のすぐ近所に住んでいるので、昨夜もやって来ていろいろ話しをしたばかりです。それなのに、今朝はわざわざ通勤時間を私たちに合わせて、おなじ始発の電車に乗り込みました。

 どうやら、人の2〜3倍はのんびりしてる私と、その私の5倍はのんびりしてる父の二人旅(しっかり者の母は写真だし)に、一抹の不安を感じたのか、綿密な旅のスケジュール表を書いて持ってきてくれたようです。

 兄が考えてくれたスケジュールによると、新幹線でまず小倉に出て、そこから日田英彦山(ひたひこさん)線経由の快速に乗ることになっています。直接、湯布院に向かうと早く着き過ぎるので、城下町の「日田」に立ち寄って2時間ほど散策したり昼食をとってから、湯布院に向かえばいいと言うことのようです。電車の時刻や名称、乗り継ぎの時間まで細かく書き出してくれていました。

 これさえあれば、もう大丈夫! 

(そのときは、誰もがそう思ったものです・・)


 さて、仕事に向かう兄に手をふって、予定の新幹線にも無事乗り込みました。お天気もいいし、旅行気分もがぜん盛り上がってきます。岡山より向こうにはあまり行ったことがないから、車窓でもゆっくり楽しもうと思って、岡山を過ぎたあたりまではしっかり目をあけていたのですが、何せ朝が早かったのでいつのまにか眠り込んでしまったようです。ふと目を覚ますと、小倉のホームにすべりこむところではありませんか!

「えっ?ココもう九州?」

横の席を見ると、案の定、父も気持ちよさそうに寝ています。あわてて父をゆり起こし荷物を抱えてとび降りて、なんとか乗りすごさずにすみました(やれやれ)

さて、ここからは兄のメモが頼りです。メモ通りに切符を買い、念のため駅員さんにも聞きながら“快速日田”が出るというホームに到着しました(ほっ)

「あれ?お父さんは・・」

いないと思ったら、ホームの売店で湯気をたててる小倉名物「中華饅頭」とかいうものを、しっかり買っているところでした。こういうときには、やけに動きが早くなるのです。

「明美とお父さんは、ほんまによー似てるわ」

どこかで母の口ぐせが聞こえたような気がしました。そろそろ、ホームにはたくさんの人が並びはじめています。きっともうすぐ快速が入るのでしょう。

「お父さん、はやくはやく・・並んでおかないと座れないよ」


、いま思うと、あの中華饅頭が“くせもの”だったのです。



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