四日目  Siem Reap → Bangkok

「さよならシェムリアップ」



シェムリアップを発つ朝がやって来た。
観光したのはたった二日間だったが、
いくつもの遺跡に出会い、まるで
遥かな時間旅行をしたような
不思議な二日間だった。

暑い季節のカンボジア。
遺跡巡りのスケジュールは
かなりハードだったし、
子供から老人までいる
総勢八人の家族旅行だったから
最初はどうなるかと思ったが、


みんな楽しかった。


 それもこれも、ガイドのソーケイさんの存在が大きい。
暑さと疲れでバテ気味になった時も、
ソーケイさんの笑顔がみんなの気分を浮き立たせてくれた。
小学五年生のユウちゃん(夫の甥っこ)も、
すっかりソーケイさんと仲良しになった。
ユウちゃんにとっては、
おそらくはじめて出来た外国のお友だちだろう。
それが、ソーケイさんのように
やさしいお兄さんで、よかった。

空港でガラスごしに手を重ね合わせ 
別れを惜しむユウちゃんとソーケイさん

 いつも明るいソーケイさんだったが、遺跡巡りの途中、椰子の木について話してくれたポル・ポト時代の話しは壮絶だった。椰子の葉っぱの付け根の部分は、引き抜くとまるでノコギリのようにギザギザになっている。ポル・ポト時代には、それを使って生きている人の首を切ったと言う。小さな赤ん坊は足の部分を持ってカベにぶつけ殺したと言う。大昔の話しではない。たった二十年ほど前の出来事だ。ソーケイさん自身、両親とお兄さんをポル・ポト時代に殺されている。その話しをまるで物語でも話すように淡々と語っていた、彼の表情が忘れられない。


in Bangkok

旅のはじめに立ち寄ったタイのバンコクに
戻って市内観光。バンコクは大都会。
雰囲気は東京とさして変わらない。

ちがうのは大変な王制の国ということだろうか。
いたる所に王さまの写真が掲げてある。
スアンパッカード宮殿や黄金大仏寺院を見たが、
アンコールワットの遺跡群を旅したあとでは、
どれもこれも何だか薄っぺらに思えた。

夕刻近く、ようやくホテルに入り、
プールで泳いだり庭を散策したら、
疲れもようやくほどけて来た。


五日目  in Ayutthaya

「アユタヤの休日」


 旅の最終日はアユタヤ観光がメイン。早朝にホテルをチェックアウトして、
チャヤプラヤー川沿いの船着き場から、豪華な観光船に乗り込む。
朝のチャヤプラヤー川は、ラッシュ時の山手線のよう。
立ったままぎっしり乗っている水上バスを何そうも見かけた。
渋滞の多いバンコクでは、水上交通が日常の暮らしを支えているようだ。

 アユタヤは、17世紀に栄えたアユタヤ王朝の都。
船を降りると、バスで王室の夏の別荘であるバンパイン離宮や日本人町跡、
それにいくつかの寺院を見て回った。

 だが、何と言っても最終日のハイライトは「象」だろう。


 アユタヤの町でみんな二人ずつ、象に乗った。



象の背中には、ふたりで腰かけられる
ベンチのような椅子が取り付けられている。
その高さに合わせたブリッジから乗り込むのだが、
象使いが象の背中に乗ってくれているから安心だ。
それにしても、足先にちょうど、象くんの大きな耳が
パタパタ当たって面白かった。
降りてから、象使いさんがなでてイイというので
触らせてもらったが、想像通りのざらっとした感触。
象の目は、やさしげで可愛い。
子象の毛はごわごわしてタワシのようだった。

ちょっぴり、タイ王族の気分?を味わった

アユタヤの休日。


こうして、アンコールワットを中心とした旅は終わった。八人の胸には、
それぞれの思い出が刻み込まれたことだろう。

「死ぬまでに一度だけ、みんなで旅行がしたい」
出発前そう言っていた夫の母だが
帰国後、倉敷からの電話では

「こんどはインカの遺跡に行きたいねっ」と話している。

彼の両親には、わたしの両親の分も長生きしてもらいたい。

インカだってエジプトだって、よろこんでお供しよう。


おわり


エッセイ・村田あけみ

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