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 ぼくは、どうしてもアイスクリーム屋さんの前に立てずにいたんだ。
なぜって?それは…いちばん楽しかった日のことを思い出すのが、とてもこわかったから。

 ぼくが、馬車の前を立ち去ろうとしたその時、それまでかすかに聞こえていたオルゴールの音色が、馬車の中から、ひときわ高く響き始めた。


『ああ、なんてなつかしい音楽だろう…』


 ふと気がつくと、アイスクリーム屋さんの目の前に、ぼくは立っていた。

 アイスクリーム屋さんの”瞳”は、彼のうしろに広がる夏の青空とおなじ…どこまでも澄んだブルーだった。どうしたんだろう…その目を見つめていると、さっきまでの不安などすっかり消えて、とても素直な気持ちになれる。

 まるで夢見るように、ぼくはただ、あの『いちばん楽しかった日』のことを思い出していた。


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