UbudNusa Dua Beach

ウブドからヌサドゥアビーチへ

4日目

 いよいよ、ウブドを離れる朝がやって来ました。ベランダから眺めるジャングルともお別れです。朝食までのひと時、ホテルの散歩道を二人で歩いていると、ホテルの従業員(十代の若者)が、人なつっこく微笑みかけてきました。下を流れるアユン川の方に降りる道を教えてくれると言うのです。いま日本語の勉強中とか・・どうやらわたしたちを見つけて『これは日本語が話せるチャンス!』と思ったようです。インドネシア(とくにバリ)には、日本語を勉強する人たちが本当に沢山います。みんな貧しい中で、よりよい暮らしを求めて必死なのです。彼の表情があまりに真摯なので、わたしたちもよろこんで日本語の相手をしました。彼が目指しているのは日本語が話せる観光ガイド。「ガイドのお金のほかに、店からリベートもらえるから・・いいね」ぽつぽつと話す言葉は、けして夢のある内容とも言えませんが、瞳は若者らしく輝いています(こんな表情をした若者に、渋谷でいったい何人出会えるでしょう?)・・白い歯を見せて手をふる彼と別れたあと、朝食をすませ、わたしたちはワゴン車に乗り込みホテルを後にしました。

 今日は、ウブド半日観光のあと、最後の宿泊地ヌサドゥアビーチへ向かいます。あの若者が憧れていた“日本語を話せるガイドさん”が、今日のわたしたちのパートナーです。ベテランのガイドさんは、さすがに日本語も上手。ただ予想通り、午前中はウブドのいろんな店(やけに高い)に連れていかれました。銀細工の専門店、バティックの店・・ようやく向かった植物園では、中のガイドさんが案内してくれます。

といっても、彼の日本語は朝出会った若者といい勝負。英語もいまいちなので、半分日本語を教えながらガイドしてもらう・・という奇妙な状況でした。熱帯の珍しい植物や、色とりどりの鳥たち(極楽鳥を初めて見ました)。コモドドラゴンという名のトカゲの所では、かなり大きいのに「まだ大人ちがうね」というガイドさんの言葉に、「コモドドラゴンのコドモかー」と夫がつぶやくと、どうやらその語呂が気に入ったらしく“コモドドラゴンのコドモ”“コモドドラゴンのコドモ”を呪文のようにくり返すガイドさん(多分、彼はこれから日本人の客が来る度、この言葉を連発することでしょう)。

コモドドラゴンのコドモ

 植物園を出て、あまり美味しくないレストランに連れて行かれたあと、ワゴン車は、ある場所に向かいました。午後のハイライトは『レゴンダンスを習って、本物の衣装で写真を撮ろう!』というもの。別に、わたしたちが望んだ企画ではないのですが、はじめからツアーに組み込まれていたから仕方がありません。『どうせ簡単に習って写真でも撮るんでしょ?』と高をくくってダンス教室に足を踏み入れたら・・とんでもありませんでした!およそ1時間におよぶ本格的なレッスン!先生は男女二名の、日本にも公演に来たことがあるという現役若手ダンサーです。

レゴンダンスの先生

『わたしたち、ただの観光客なんだけどなあ・・』と思いつつ、先生の熱心さ(踊りへの情熱)に圧倒されて、いつの間にか真剣になっていました。もう、汗だく(練習用の衣装を配布されます)。腕をねじ曲げ、腰をひねり・・つくづく、昨夜観たダンスショーが神業に思えました。本格的なメーキャップと本物の舞台衣装の着付けを受けて、鏡の前に立つと、見知らぬ自分が立っています。異様な化粧ですから、恥ずかしかったけれど、バリの文化を肌で知る、よい経験になったことだけは確かです。

 一日目にも泊まったヌサドゥアビーチのバリヒルトンに到着した時は、もう陽が沈みかけていました。さあ、バリ最後のディナーです。結局、久しぶりの日本料理を味わったあと、中庭の野外シアターで行われるダンスのショーを観に行きました。でも、昨夜のウブドで観たショーに比べると、まるで素人芸です。とくに今日はダンスの特訓を受けたばかりなので、違いがよくわかります。どうやら鑑賞眼だけは、バリ人並み?に肥えてしまったのかもしれません。

 常夏のバリにいるうちに、すっかり忘れていましたが、明日はクリスマスイブ。ショーを観たあと、広い中庭やプールサイドを散歩すると、バリヒルトンの照明もすっかりクリスマスの装いです。バリ最後の夜が、美しい表情を見せて、またたくように微笑んでいました。

5日目(最終日)

  帰りの飛行機は夜出発なので、それまでの時間は自由です。一応チェックアウトしなくてはいけませんが、部屋以外は、プライベートビーチや更衣室など施設は自由に使えるので、今日は海水浴も楽しめます。ただその前に、この日は午前中にやることがありました。

それは“パラセイル”。パラシュートでモーターボートに引っ張られて空に舞い上がるアレです。何年も前から、やりたくて仕方なかったのですが、昨夜、ここから少し離れたビーチでやれると知って予約を入れました。朝早く迎えに来た車に乗り込んでビーチへ。ビーチにつくと、離陸する小島に渡るため、モーターボートに乗り移りました。小島に到着すると、注意事項(ひもの引っ張り方とか)を簡単に教えられたあと、すぐ本番です!まずは夫が、最初に空に舞い上がりました。風の具合もいいようです。ぐんぐん高く上がっていきます(おそらく地上150メートルは軽く上がっているでしょう)。降りてきた彼の表情は「気持ちよかった〜!」と輝いています。つぎは、いよいよわたしです。不思議と恐怖はありません。何しろ、あれほど夢に見た空に舞い上がれるのですから!

 胴着を付けてもらい、モーターボートに引っ張られて数歩、白い砂浜を走ったら、もう体はふわりと浮き上がっていました・・ぐんぐん高く舞い上がります!空からは、青い海と、やしの木におおわれた小島の全景が見えました。ああ、この浮遊感・・『もっと永く飛んでいたい』・・願いが通じたのでしょうか?わたしの時は、風が少し変わって着陸に手間取り、おかげでやや永く空中に浮かんでいることが出来ました。

 ホテルに帰ったら、プライベートビーチへ直行です。バリヒルトンのビーチは広くて、ゆったり。青い空に浮かぶ入道雲が本当にキレイでした・・のんびり海を満喫したあとは、シャトルバスでヌサドゥアビーチのショッピングセンターへ。ここは、商品の品揃えがさすがに洗練されています。ガムラン音楽のカセットテープ、ジャワティー、バティックの織物、銀細工の髪飾り・・少しずつ、思い出になるものを買い揃えました。この五日間の濃密なバリの時間と匂いを、少しでも東京のわが家に持ち帰るために・・。インドネシアでめぐり会えたステキな笑顔たち。島のあちこちで、鼻歌を口ずさむ人たちをよく見かけたものです。

 帰り、成田から新宿まで出て山手線に乗った時、少しギョっとしました。日本人の表情の方が、まるで遠い異国の人のように思えたのは・・なぜでしょう?

 『バリ日記』-おわり-

 ここまで、長い旅行記におつき合い下さったみなさん、ありがとうございました(おつかれさま)。旅行記を書いてみて気がついたのですが、単に旅の記録というだけではなく、書くという作業を通すと、旅で得たものが体のすみずみにまで行き渡る気がします。

by Akemi Murata


まえのページへ『絵本Cafe』へもどる

<--Back to Home Page