【フォト& エッセイ】

「海からの風」

Written by Akemi Murata / Photo by Osamu & Akemi Murata


「海を見に行こう」

父の死から二週間ほどが過ぎた
ある朝、夫が言った。


あまりにも突然だった父の死に、感覚さえマヒしたような
ショック状態が過ぎると、ひたひたと淋しさがうち寄せてくる。


父の不在という現実と、喪失感....目覚めるたび、
やり場のない悲しみが、毎朝わたしを襲っていた。

そんな状態に、気づいていたのだろう。


「海を見にいこう」

彼がかけてくれたそのひと言は
溺れる寸前に投げられた浮輪のように

わたしの心をすくいあげた。




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<This page's photo by Akemi Murata.>