KUMA's Room Part.36
あれ?ノボックとカミラはどこへ行ったんだろう.... さっきまでクロッカスの花のところにいた、ふたりが見当たらない。 すると、「わたしたちならココよ」って声がした。 木のしげみの根本あたりから聞こえるけど・・・ しげみのおくをのぞき込むと、大きな葉っぱのしたから
ふたりがピョコンと顔をだした。木のかげの、こんな見えないところでも緑の葉っぱが
ちゃーんと、芽吹いていたんだなあ...ゆうべの雨でまだぬれながら、葉っぱが
手のひらをいっぱいにひろげてる。「ここから見上げると木漏れ日が、とってもキレイよ」 カミラがまぶしそうに、空をあおいで言った。 おや?これはなんだろう... おいらは、みなれないカタチの葉っぱを発見した。
(もうすこしで、ふんづけるとこだったぞ)よく見ると、葉っぱのまんなかあたりは
くるくるまるまってる。何ともやわらかくて、ウマそうな葉っぱだ。 「イタリアンサラダにするかな?ゴマ和えもいいぞ...」 おいらが、あつい視線をそそいで
料理法をあれこれ思案していると「くまさん、わたしたちを食べないでください」 なんと、食材にする予定の当のご本人がしゃべりだしたじゃないか。 「あら、フキノトウさんじゃない?」 その葉っぱをのぞきこんでカミラが言った。 「えっ?この葉っぱ、
だれかの父さん(とうさん)なのか?」とおいらは、またまたびっくり。すると 「いやだなー、
フキノトウって名前なんだよ。
だから“フキノトウさん”なんだ」と、ノボック。
う〜む、名前というのは、つくづくややっこしいぞ...。
なんでも彼ら(フキノトウ)は、この家に以前に暮らしていた住人の手で
北の方にある土地からココに連れてこられ、植えられたんだそうだ。「わたくしどもは イーハトーブ というところからまいりました」 と、フキノトウさんが言ったので おいらは「えっ?ハトストーブ?」と、おもわず聞きかえした。
(ハトのカタチをしたストーブか...見てみたい)「いえいえ、イーハトーブ。そういう名前の場所なのでございます」 (やれやれ、また「名前」だ...) 彼らの話しによると、イーハトーブという名をその土地につけた人は
たくさんの詩や童話を書いた、宮沢賢治(ミヤザワケンジ)とかいう人物らしい。フキノトウさんは、やけに彼のことにくわしくて
ケンジがつくったという詩を、いくつかそらんじて
おいらたちに聞かせてくれた。アメニモマケズ、カゼニモマケズ...そういうひとにわたしはなりたい
なんか、そんなかんじの詩もあったなあ。ぜんぶはよく分からなかったが、おいら
ケンジの詩が気に入ったぞ。
うん、ちょっと鼻のおくがツーンとしたな...「イーハトーブに帰りたいのではありませんか?」
カミラがフキノトウさんに聞いた。すると 「イーハトーブは目を閉じればちゃんと見えますから、だいじょうぶ。
それにほら、あの空はイーハトーブともつながっていますからね。
ケンジさんがいる世界とも、空はどこかでつながっているんですよ...」フキノトウさんは、空をあおいで
春風にすこし揺れながら、夢みるように言った。それにしても「春さがし」しながら
今日はいろんな「名前」にも出会ったなー。チンチョウゲ、クロッカス、フキノトウ、イーハトーブ、ミヤザワケンジ... うーむ、くらくらしてきたぞ(春はめまいもするらしい) 「よし!部屋にもどったら、まずはお茶とクッキーで腹ごしらえだ。
それから、詩でも書くかな?いや、そのまえにまず、昼寝だな...」そう、おいらが言うと ノボックとカミラが顔を見合わせ、声をそろえて歌うように言った。 「クイケニマケズ、ネムケニマケズ...
そういうクマに、あなたはなれない」はじけるような、ふたりの笑い声が青い空にこだました。 あれ? 空からべつの笑い声も こぼれたような気がしたけど おいらの気のせいかなあ