短歌抄


化野の雨 ―あだしののあめ―

 

短歌とCG むらたあけみ



銀のうろこ天のしずく 雨の底ゆらゆら 深海魚になる午後


*

 

生が死に死が生に化す野に化野(あだしの)と 名づけし古人の心宇宙


*

 

時空を縫う白い糸 あの世とこの世の垣根にじませ雨は降る


*

 

黒髪に絡まる情念そり落とし 祇王寺に尼たちが見たもの


*

 

土を聴き花の色変える紫陽花 雨に潤んで彼方を照らす


*

 

この道を萌えだす春にたどった人は風になり いま竹さわわ


*

 

雫にひかる霊たちの夢さざめかせ 雨はどこへ染みゆくのか



Comennt

五月に亡くなった父の納骨法要をすませたあと
東京に戻るまえに京都の嵯峨野に立ち寄りました。
雨足のつよい日でしたが、おかげで人影は少なく

嵐山から*念仏寺のある化野まで

父が今年、新緑の季節に訪れたばかりの場所を
かみしめるように、たどりました。

父がとくに気に入っていた*祇王寺の苔蒸した庭、ちいさな庵
途中の竹林の道もじつに風情があり、時代も空間も

超えられそうな錯覚を、ふと覚えるほどでした。

Akemi

短歌抄「化野の雨」を、書道家・香葉が書画にしました。
下の書画をクリックすると大きな画面でご覧になれます。


*備考

【化野念仏寺】
化野は古くから京都の代表的な墓所のひとつ。念仏寺はこの地の墓守寺として弘法大師により創建されました。境内を埋める約8000体近い石仏、石碑は付近の土中から発掘されたもの。彼岸や地蔵盆の夜、石仏ひとつひとつに灯をともす千灯供養は有名です。

【祇王寺】
平清盛の寵愛を新参の仏御前に奪われ21歳の若さで妹や母とともに尼になって、この寺の庵で念仏の日々を送った祇王。その後、仏御前もまた清盛の愛は一時のものと悟り、祇王を慕って尼となりました。平家滅亡の哀史の陰に咲いた物語を秘める寺。小さな庭はカエデにおおわれ苔むし、草庵と呼ぶにふさわしい茅葺き屋根の庵(本堂)には、祇王らのどこか愛らしい本像が安置されています。


その他の↓父に捧げる作品

悠々と(ポエム)
海からの風(エッセイ)
降りつもった羽根(ポエム)
車内のゲーム(エッセイ)


<--Back to Home

<--絵本Cafeへもどる