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あれから、いくつ夏を数えただろう。
ぼくたちも大人になった。
トムは、人をびっくりさせるような絵をいまも描いている。ただし、家の壁にではなく、白いキャンバスの上にね。恥ずかしがりやのソフィーは女優になった。われるような拍手に包まれて、彼女は今日も舞台に立っている。
ぼくは設計技師になった。毎日、大きな机に向かって、座り心地のいい椅子や、いろんな乗り物のデザインを考えている。ぼくの夢は、からだを自由に動かせない人たちでも、こわがらずに一人で出かけられるような、そんな乗り物をつくることなんだ。そう、自由にはばたく『つばさ』のような乗り物をね。
完成したら、きっとあの模様を描くだろう…エンジェルの羽のような二枚のつばさを。
ぼくは信じてる。
いつか晴れた夏の日に、あのアイスクリーム屋さんの馬車がまたやってくることを。
だからその日のために、とっておきの楽しい日をつくって、待つとしよう…。
【END】