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波うちぎわでどれくらい海を見ていただろう...

ふと見ると、夫が浜辺の崖をよじのぼって、いつの間にか小高い丘のうえに立っている。
その下まで行くと「のぼっておいでよ」と手をのばした。

彼の腕にひっぱりあげられ、岩を足場に何とか
よじのぼったわたしは、丘のうえに広がる光景に息をのんだ。

そこは、ちいさな花園.....

名もしらない花やススキのような穂が、潮風にそっと揺れている。



海からの風に、心がほどけていくよう....

来てよかった


.

突然きめた旅だから、テレビで見たあの宿に部屋をとるのは無理だろうと思った。ところが、念のため問い合わせてみると、海側の部屋がひとつだけ空いているという。いざ部屋に案内されてみると、そこは客室というよりも広間。なんだか広すぎて、二人には落ち着かない。

「ここしか空いてなくて、すみません」

仲居さんもしきりに恐縮していたが、海側の障子を開けたとたたん、わたしたちは思わず歓声をあげた。天井から床まで、窓が巨大な一枚ガラスになっている。聞くと、こんな窓がある部屋はどうやらここだけらしい。これは結構、当たりだったかもしれない。部屋のなかから、海と空を心ゆくまで眺められそうだ。


窓辺に立つと、海のうえにふわり
からだが浮かんでいるような

錯覚をおぼえた。



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<This page's photo by Osamu Murata.>