【フォトポエム】

「風の庭師」

Poem by Akemi Murata ・Photo by Osamu Murata


天気予報の桜前線も 花見客の喧噪も

聴こえない 届かない

標高1,700メートルの 尾根道にひっそりと

その桜は 咲いていた


桜の木に 桜の花

なんの不思議もないけれど

咲いていたのは 五月の終わり


下界では 葉桜さえも忘れ去り 母の日のカーネーション

手早く片づけられた花屋には 紫陽花の群れが雨ににじむ


そんなことなど 知るよしもなく

風ふきすさぶ尾根道に その桜は咲いていた


つめたい風に 葉はちぢれ

はげしい風に 枝はよじれ

厳しい「風の庭師」が創る

それは天上にもっとも近い

神さまの 盆栽 -bonsai-


しらなかった

五月のおわりに 咲き初める

桜の園が あったなんて


つめたい霧に 濡れながら

見えないものを感じて歩く


生きるうちに 知ることは

なにひとつ 知らないと

いうこと




詩・ 村田あけみ



Comment


三年前の5月20日、突然さよならも言わず、逝ってしまった
父の命日の次の日(21日)に、那須山へ初登山しました。

それにしてもこの日の山は、登山に不向きな天気でした。
白い霧で視界はせまく、冷たい雨とつよい風に打たれ…
でも、こころにしみじみ残る 山登りになりました。

(見えないから、見えてくるものってあります)

山歩きで出会った いじらしい「みね桜」と
わたしに思い出をいっぱい遺してくれた
亡き父に、この詩を捧げます。



2002.5月末日 村田あけみ


<その他の↓父に贈る作品>

詩 「悠々と」
「降りつもった羽根」
エッセイ「海からの風」
短歌「化野の雨(あだしののあめ)
エッセイ「車内のゲーム」


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